インスピロンQ&A「より安全にお使い頂くために」
- 【監修】
- 北海道大学大学院
保健科学研究院
教授 宮本 顕二先生
酸素療法のためのディスポ製品として、永年ご愛顧を頂き、厚く御礼を申し上げます。
皆様よりよくご質問いただく項目について、宮本先生に回答を頂きました。
臨床現場でご活用頂ければ幸いです。今後ともよろしくお願い申し上げます。
小林メディカル株式会社
小さい穴がたくさん開いたものは簡易酸素マスク、大きな穴が開いたものはベンチュリマスクとして使用します。両者の使い方は全く違います。
簡易酸素マスクでは、酸素を無駄なく使うために、マスクの穴を小さくしてマスクの外へ酸素が逃げにくくしてあります。そのため、酸素流量が少ないと自分自身の呼気を再呼吸してしまうため、酸素流量は5L/分以上にすることが推奨されています。もし、5L/分未満で使う場合は患者のPaCO2が上昇する可能性があることを十分認識してください(次の質問参照)。
一方、ベンチュリマスクでは、設定濃度の酸素ガスが大量にマスクに供給されます(ただし、酸素流量が正しい場合)。そのため、患者の呼気中は余分の酸素ガスをマスクの外に流し出す必要があります。そのため、マスクの左右の穴が大きくなっています。
簡易酸素マスクをつかって酸素を2L/分程度流すだけでは、その量が少なすぎてマスク内にたまった呼気ガスを十分外に放出することが出来ません。そのため、患者さんはマスク内にたまった自分の呼気ガスの一部を再呼吸してしまいます。わずかですが患者さんのPaCO2が上昇します。この呼気ガスの再呼吸を防ぐために酸素流量は5L/分以上とすることが推奨されています。このことは、吸入酸素濃度が約40%を超えることを意味します。言い換えると、吸入酸素濃度40%以下にはこの簡易マスクは適さないことになります。
しかし、ご質問のように臨床現場では酸素流量5L/分未満で簡易酸素マスクを使っていることが少なくないと思います(むしろ多いかもしれません)。この場合、重要な事は、酸素5L/分未満を流すと患者のPaCO2が上昇する危険性があることを認識しているかどうかです。動脈血ガス分析を必要に応じておこなうことが大切です。パルスオキシメータではPaCO2がわからないことにも留意してください。
- Q3
- 1)マスク・カニューラ
リザーバ付マスクの一方弁は両方つけたままで使うべきでしょうか?それとも一つ外して使うべきでしょうか?
医療のケーススタディを書き込む方法
マスクが患者の顔に密着した状態で、患者の1回換気量が大きい場合や、時に深呼吸をする場合、または呼気中にリザーババッグの中に酸素が十分たまらない場合(酸素流量が少ないか、呼気時間が短い場合)は、どちらかの一方弁を1つ外して使ってください。
リザーバ付マスクは呼気の間に酸素をリザーババック(約600ml)に蓄え、その酸素を次の吸気に一緒に吸い込む方法です。 吸気時に室内の空気を吸い込まないようにマスクの両側の孔には一方弁がついています。この一方弁があるために、大きくて深い呼吸をしている患者(1回換気量が大きい患者)や深呼吸している患者は、途中から息を吸い込むことができなくなります。このような状況では片方の弁を外します。
具体的に説明します。1回換気量が700ml(吸気時間は1秒、呼気時間は3秒で呼吸数は15回/分です)の患者に酸素を6L/分流したとしましょう。1秒間に流れる酸素の量は100ml(=6000ml/60秒)です。呼気中にバッグにたまる酸素の量は300ml(=100ml X 3秒)です。次の吸気に患者が吸い込む酸素の量は、バックの300mlと吸気の1秒間に流れてくる酸素(100ml)の和である400mLです。しかし、1回の吸気量は700mlですので、400ml吸い込んだ時点で、それ以上は息が吸えません(なぜなら、マスクの弁は一方弁のため、外から中へ空気は入りません)。このような場合は、弁の一つを外します。ただし、この場合、空気が混入してくるので、吸入酸素濃度は低くなります。
もちろん、マスクの外から空気がはいるようにしないと、常に100%の酸素を吸入してしまうことになります。
50%の酸素が酸素マスクから流れてきますが、その流量(トータル流量)が少ないために、患者は50%の酸素を吸入していません。
インスピロンネブライザーはベンチュリ効果を利用したものです。 設定酸素濃度50%で酸素を4L/分流すと、ネブライザーの中で空気が入り込んで混じり、マスクから約11L/分(酸素4L/分+空気7L/分)の50%酸素が流れてきます。11L/分では1秒間に183mlの50%酸素が流れています。成人の患者ではだいたい1秒間に400~500mlの空気を吸い込みます。皆さんもそうです。仮に1秒間に500ml吸入する患者さんと仮定すると、1回の吸気中には50%酸素がたったの183mlしかマスクから出てきません。不足の317ml(=500-183)はマスク周囲の空気を吸いこみます。結局、患者は空気の混じった50%以下の酸素を吸入していることになります。このように、ベンチュリ効果を利用した器具を使用する時は、設定酸素濃度の調節だけでなく、そのときの� �素流量にも留意してください。
一般に設定酸素濃度が30%であろうが、50%であろうが、マスクから出てくるトータル流量は1秒間に500ml以上(=30L/分以上)必要で、そうなるように設定酸素濃度ごとに推奨酸素流量が決まっています。推奨酸素流量は説明書に記載されていますので、参照してください。ただし、1回換気量がすくない乳幼児ではトータル流量が1秒間に500ml以上は必要ありません。もっと少ない酸素流量で十分です。
なお、トータル流量は下記の式で求められます。
トータル流量=[(100-21)/(設定酸素濃度-21)] × 酸素流量計の流量
- Q5
- 2)ネブライザー
インスピロンネブライザーの酸素濃度を100%にしましたが、SpO2があがりません。どうしてでしょうか?
機能的行動アセスメントとは何か
患者は100%の酸素を吸入していないためです。
具体的に説明します。たとえば、インスピロンネブライザーで酸素濃度を100%とします。このとき、酸素を0.6 L/分流したとします。100%の濃度設定では、空気は入り込まないので、100%の酸素がそのまま0.6L/分流れることになります。この流量は1秒あたり10mlの酸素が流れることを意味します。通常、患者は1秒間に400~500mlの空気を吸い込みます。仮に500mlとしましょう。吸い込んだ空気の中に10mlだけ100%酸素が入ってきます。不足の490ml(=500-10)はマスクの左右の穴から空気を吸います。つまり、患者は100%酸素を吸入していることにはなりません。
この患者に100%酸素を吸入させるには1秒間に500mlの酸素を流さなければなりません。500ml/秒=30L/分です。つまり、100%酸素を30L/分流さなければいけないことになります。ところが、通常の酸素流量計の最大目盛は15L/分です。健康保険で請求できる最大の酸素流量は10L/分ですので、多くの流量計は最大でも10L/分です。フラッシュ機能付き流量計を使ってもインスピロン自体の持つ流量抵抗のため、酸素は最大でも18L/分程度しか流れません。
ですから、結局、マスクから出てくるトータル流量が30L/分を流せる最大の酸素濃度は60%(酸素流量15L/分のとき)となります。インスピロンネブライザーでは60%のダイアル設定はないので、設定可能な最大酸素濃度は50%となります。
ただし、1回換気量が少ない乳幼児や肺線維症患者では別です。トータル流量が少なくてもよいので、より高濃度の酸素を吸入させることができます。
インスピロンネブライザーで酸素濃度の設定ダイアルには70%、100%がありますが、これは、乳幼児あるいは特発性肺線維症などのように成人でも1回換気量が極めて少ない患者用と理解してください。
どちらも間違いです。大切なことは設定酸素濃度に対して適切な酸素を流しているかどうかです。もし、正しい酸素流量でもSpO2が改善しないのであれば、設定酸素濃度をあげ、その濃度に対応した適切な酸素を流さなければいけません。設定酸素濃度に対応した適切な酸素流量を表に示します。
間違いです。インスピロンネブライザーの空気の取り込み口をよく見てください。設定酸素濃度70%のときの空気の取り込み口はきわめて小さいくなっています。70%以上に濃度を上げようとすると空気の取り込み口はふさがってしまいます。
つまり、70%から少し濃度をあげると設定酸素濃度は100%になります。目盛をおおよそ90%のところにしようが、80%のところにしようが出てくる酸素は100%です。※8)
蛇管を1区間(約15cm)つけてください。
インスピロンネブライザーを使用している場合、大量の酸素ガスが供給されていますが、リザーバとして蛇管をつけることで、吸気時に空気の吸い込みが少なくなり、吸入酸素濃度をより安定させることができます。
酸素チューブから酸素を供給している場合は、蛇管1区画の容量は約60mlですので、蛇管にたまる呼気ガスを放出するために、2L/分以上を流すことが推奨されます。
看護は何を意味する
気管切開用の人工鼻には、専用の酸素供給チューブが販売されています。人工鼻をつけたまま酸素を投与する場合は、そのチューブを使用してください。
- Q10
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素流量計の恒圧式と大気圧式の違いを教えて下さい。また、インスピロンを使用する場合、どちらを使用すればよいのでしょうか?
構造的に酸素流量を調節する部品の位置が違います(下図参照)。そのため、使用できる機器や取扱方法に違いがあります。
大気圧式は、鼻カニュラや簡易酸素マスクのような、流量抵抗の掛からない「低流量システム」でのみ使用できます。また流量計を使用しない時に配管やボンベに接続したままでも、流量計内部に圧力が掛からないため、大きな問題はありません。
一方、恒圧式は、「低流量システム」だけでなく、流量抵抗のかかるベンチュリマスクなどの「高流量システム」でも正確な流量を調節することができます。しかし流量計内部に常に配管圧力が掛かっているため、使用しない時に配管に接続したままにすると破損するおそれがあります。
インスピロンネブライザーは、「高流量システム」に分類される器具なので、恒圧式の酸素流量計を使用することになります。
- Q11
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CO2ナルコーシスとはどのような病態なのでしょうか。CO2ナルコーシスになるとどのような問題が生じるのですか?
二酸化炭素は生体では酸として作用します。そのため、高炭酸ガス血症になると(呼吸性アシドーシスといいます)、血液はアシデミア(酸血症)になります。この変化(血液の酸性化)が急激におこると、脳のpHも酸性になり、中枢神経障害がおこります。この状態をCO2ナルコーシスといいます。動脈血pHが7.30以下になると傾眠傾向になり、7.10以下では昏睡状態になります。
しかし、PaCO2の上昇が数日かけてゆっくりしているときは、その間に腎臓がpHを補正します(代謝性アルカローシスといいます)。このようなときは、PaCO2が高値であってもpHがほぼ正常範囲に保たれていますので、CO2ナルコーシスは起こりません。
皆さんの病院では、酸素吸入の際には酸素加湿器を使っていると思います。
でも、ちょっと考えて下さい。鼻カニュラで2L/分の酸素を吸っているとします。このとき、1秒間に流れる酸素の量は33ml(=2、000÷60)。私たちは1秒間に500mlの空気を吸うのに、鼻カニュラから肺に入る酸素は1回に吸う量の6.6%(=(33÷500)×100)にすぎません。このわずか6.6%を加湿してもその影響はきわめてわずかと思いませんか? 実際にこの流量の酸素を吸ってみて下さい。ほとんど気がつかない量です。残りの467ml(=500-33)は鼻のまわりの空気を吸っています。そう、大切なのは室内の湿度です。酸素吸入の酸素を加湿するよりは室内の湿度を高めたほうがよほど効率的です。※5) 6) 7)
ちなみに、米国では鼻カニュラで酸素流量5L/分以下の酸素を加湿する科学的根拠はないと米国胸部学会(ATS)のガイドラインに記載されています2)(米国呼吸療法学会(AARC)では4L/分以下とされています)1)。ただし、わが国のように多湿な環境に慣れた患者さんに、米国のガイドラインがそのまま通用するとは限りません。そのため、我が国で報告された研究成果から、鼻カニュラで酸素流量は3L/分以下、あるいはベンチュリマスクで40%以下にあえて酸素を加湿する必要がないと、酸素療法ガイドライン(日本呼吸器学会、日本呼吸管理学会編、2006年)4)に記載されました。
酸素の加湿が不要になれば酸素加湿器による夜間の騒音も解消されます。使い捨て容器入り加湿用蒸留水は1個1000円程度です。毎週1回交換するとして、皆さんの病院でいくらかかるか計算してみて下さい。経費節減の意味からも検討する価値はありますね。
ただし、天然の加湿器である鼻で呼吸できない患者、たとえば人工呼吸器を使っている患者さんの場合は違います。当然、加湿は必要です。
そんなことはありません。酸素加湿をやめるべきとはガイドラインにも記載されていません。酸素加湿を続けるのは構わないが、あえて行わなくてもよいということです。なぜならば、酸素加湿をおこなったほうが鼻腔の刺激が少ないのです。ただし、低流量(鼻カニュラで3L/分以下)や低濃度(ベンチュリマスクで40%以下)では酸素加湿をおこなわなくても自覚症状に差がないことから、あえて、看護業務を増やし、加湿器につかう滅菌蒸留水を購入してまで酸素加湿をおこなわなくてもよいという意味です。酸素加湿はやめるべきと誤解している方が多いので注意してください。
急性期の病棟では酸素流量は患者の状況で大きく変動します。そのような病室でははじめから酸素加湿器をつけていた方が現場の状況に即しています。
加湿は絶対に必要です。通常の加湿器をつかってください。ただし、室温加湿では加湿効果は弱いため、加温加湿器を使うとよいでしょう。
- Q15
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感染予防のためにネブライザーはどのくらいで交換したらよいのですか?
24時間毎に低レベルの消毒、もしくはパスツール式低温消毒し空気乾燥させる必要があります。これは米国の疾病予防管理センター(Centers of Disease Control and Prevention)から発表されている「医療に関係する肺炎の予防のためのガイドライン2003年版」に推奨事項(蒸気テント・ミストテントの項)として記載されています※3)。
同ガイドラインにはネブライザーの交換時期については、未解決の事項とされていて、現時点では明確な基準がありませんが、24時間毎に消毒する必要がありますので、それを目安にするとよいでしょう。
- Q16
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インスピロンネブライザーの水が少なくなった場合、水を注ぎ足してはいけないのでしょうか?
いけません。インスピロンネブライザーはベンチュリ効果により、酸素を室内の空気で希釈して酸素濃度を調整しています。室内の空気を巻き込む際に、空中の浮遊菌も一緒に巻き込んでしまいます。そのため、水の注ぎ足しを繰り返すと、蒸留水が汚染され、細菌が増え、院内感染の感染源となる危険性があります。ネブライザーの水が不足したときは、必ず、容器に残った水を廃棄して、容器を滅菌蒸留水でよくすすぎ、新しい蒸留水と交換してください。
なお、インスピロンネブライザーは本来単回使用を想定して作られています。そのため、一人の患者に一つのインスピロンネブライザーです。
消毒して何回も使用している病院があると思います。その場合、酸素濃度設定が正しく行われていない危険性があります。
引用文献
- ※1)
- AARC clinical practice guideline - oxygen therapy in the home or extended care facility -. Respir Care 37: 918-922, 1992.
- ※2)
- CDC(米国疾病予防管理センター). Guidelines for Preventing Health-Care-Associated Pneumonia, 2003.
- ※3)
- Official statement of the American Thoracic Society. Standards for the diagnosis and care of patients with chronic obstructive pulmonary disease. Am J Respir Crit Care Med 152:S77-S121, 1995.
- ※4)
- 日本呼吸器学会,日本呼吸管理学会編. 酸素療法ガイドライン, 2006.
- ※5)
- 小熊英敏,宮本顕二,木野靖史,ほか.酸素加湿器の加湿能力の検討.日本呼吸管理学会誌 13(3);512-515, 2004.
- ※6)
- 宮本顕二.経鼻的低流量(低濃度)酸素吸入に酸素加湿は必要か? 日本呼吸器学会雑誌42(2):138-144, 2004.
- ※7)
- 宮本顕二,加後勇人,福家 聡,西村正治.経鼻的酸素吸入における酸素加湿の必要性の有無に関する研究.日本医師会雑誌 133(5):673-677, 2005.
- ※8)
- 宮本顕二 ネブライザー付酸素吸入器(インスピロンネブライザー,アクアパックネブライザー)で高濃度酸素吸入はできない.日本呼吸器学会雑誌 43:502-507, 2005.
- ※9)
- 宮本顕二,前川弘恒,岡田 晃,笠原敏史.吸入酸素濃度調節機能のない簡易酸素マスクにおける酸素流量と吸入酸素濃度の関係.日本呼吸管理学会雑誌 15;264-269, 2005.
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