薬学の時間
2007年5月3日放送
「小児メタボリックシンドロームの最近の知見」
日本大学医学部小児科学教室准教授
岡田 知雄
はじめに
日本人学童生徒の肥満の頻度は、最近の30年間で3倍に増加し、約10%にみられます。成人と同様に小児においても肥満は、高血圧や高脂血症、動脈硬化の重要なリスクファクターであります。2型糖尿病の小児における頻度も、1982~1986年と1992~1996年との10年間の期間で比べると2.6倍に増加しており、しかもその2型糖尿病の小児の80%は、肥満であります。7歳児に肥満であった者の40%、思春期以後の肥満の70~80%は成人期の肥満に移行すると報告されています。このように、小児期早期からの肥満の予防は、糖尿病の発症や成人期の心血管病予防にとって重要なのものであります。
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動脈硬化の病理学的な変化が始まるのは、小児期からであることは、今日よく知られた事実となりましたが、こと肥満と動脈硬化との関係についての病態生理が明確になったのは、20世紀末になってからです。すなわち、内臓脂肪蓄積とアディポサイトカインの役割が明らかにされてきました。小児肥満は高率に成人の肥満に移行し、また肥満の経過年数が高ければそれだけ早期に心血管病のリスクが高くなることは、スウェーデンのMossbergの成績が示す通りです。肥満の程度よりも体脂肪分布において、小中学生でも中心性肥満か末梢性肥満かによって、前者にて既に動脈硬化促進性のリポ蛋白やアポリポ蛋白プロフィールを示すことが、我々の研究においてもわかっておりました。内臓脂肪の評価は、ウエスト/ヒップ比に始まり、成 人の動脈硬化性心血管病リスクの予測の指標でしたが、現在では小児も成人も、ウエストそのもの自体か、集団検診ではウエスト/身長比が、リスク評価に用いられています。
小児の肥満において既に動脈硬化の前駆状態にある可能性が、臨床的に総頸動脈エコーによる血管機能の指標になるstiffness indexの増加や、前腕動脈を駆血してエコーにて血管径の変化を観察するflow mediated dilatationの低下の所見が認められます。肥満に伴う酸化ストレスの存在と一酸化窒素合成酵素の障害のような血管内皮障害を生じる関係が、内中膜複合(IMT)の肥厚の出現する前から存在する可能性があり、脂肪細胞から産生される生理活性物質であるadiponectinの低下などが関係していると考えられています。
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メタボリックシンドロームと小児の関係について
メタボリックシンドロームとは、将来の心血管病や2型糖尿病への進展の危険性の高い、一群の患者を見いだすための基準であると、考えられます。
メタボリックシンドロームと新しい心血管病の危険因子、すなわち、炎症のバイオマーカーとしてCRP、血清アミロイドA、IL-6、そして脂肪細胞由来のサイトカインであるadiponectinやleptinとの相関が見いだされてきました。これらの新たな心血管病の危険因子は、従来の高脂血症、インスリン抵抗性、高血圧などの危険因子とは独立して、心血管病との相関が示されます。さらに、CRP濃度の上昇やadiponectinの低下は、特に、心血管病の発症の独立した危険因子として知られるようになりました。
adiponectinは、冠動脈疾患や糖尿病の発症メカニズムとして、そのバイオマーカーとしての代表的な存在であります。adiponectinは、vitroにおいて障害血管壁に粘着し、血管壁細胞成分について抗炎症作用を有します。また、血小板由来成長因子などの成長因子により増殖する平滑筋細胞や、血管内皮細胞核内因子κBのシグナリングを阻害する作用も有しており、抗動脈硬化を示します。 その血中濃度の測定から、人において肥満や2型糖尿病、そして冠動脈疾患では有意に低下することが知られてきました。
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小児肥満と血中adiponectinの値について
健常な小学4年生を対象とした集団では、血中adiponectinの値に性差はみられませんでしたが、肥満群(肥満度20%以上)は非肥満群と比べて、有意に低値を既に示しています。また、中学生においては、血中adiponectin値は、女児に高く、性差が認められ、やはり肥満男児で明確に低下しておりました。Asayamaらは、小児肥満により低下したadiponectinは,肥満治療により正常に復することを報告しています。adiponectinには、脂肪細胞から分泌されるなかでインスリン感受性ホルモンとしての役割が推測されています。肥満による脂肪細胞の大型化により、小児でもadiponectinの分泌低下に伴いインスリン抵抗性が生じやすくなるため、2型糖尿病の発症リスクは増加し、また動脈硬化へ進展する素地ができやすくなります。
小児肥満にお ける前駆的動脈硬化と内臓脂肪の関係
総頸動脈エコー検査により、高コレステロール血症や肥満症などの酸化ストレス状態にある小児には、早期から血管拡張能が障害される所見が報告されています。特に血管内皮機能として拡張能の指標とされるstiffness βは、IMT:intima-media thickness(内中膜複合)が厚くなる前に低下する所見を示します。実際に、腹部超音波検査にて内臓脂肪の客観的指標とされる腹膜前脂肪厚pmaxを測定し、stiffness βと対比すると、有意に肥満群にてstiffness βは高く、内皮機能の障害が示唆されます。
小児のメタボリックシンドローム基準とその現状
小児のメタボリックシンドロームの研究は、世界的に標準的な定義はありませんが、de FerrantiらはAdult Treatment Panel-Ⅲ(ATP-Ⅲ)criteriaを基に、小児のメタボリックシンドロームの診断基準を提案しております。またわが国では、平成18年度厚生労働省班会議(大関武彦主任研究者)においては、小児肥満症の検討委員会(日本肥満学会)の資料を参考にし、わが国の小児、特に小中学生のための基準としての試案が出されております。これによると、ウエスト、すなわち腹囲(これは、立位にて測るお臍の周囲径です)が80cm以上あり、血圧や糖、脂質代謝の異常、すなわち、中性脂肪、HDLコレステロール、収縮期血圧、拡張期血圧、空腹時血糖の5項目のうちの2項目以上を有する場合に、小児のメタボリックシンドロームと診断します。すなわちこれらの基準値は、中性脂肪120mg/dl以上、HDLコレステロール40mg/dl以下、血圧収縮期120mmHg以上、拡張� �血圧70mmHg以上、そして空腹時血糖100mg/dl以上、です。成人のメタボリックシンドロームの基準値とは異なります。
現在、全国の学童生徒を中心にメタボリックシンドロームの診断の妥当性と現状に関してなお検討されつつあります。小児のメタボリックシンドロームの頻度は、わが国では、提案された基準に基づく多くのデータが集まると予想されるので、今後明確になると思われます。我々のある1地区での2002年の検討では、現基準とは異なりますが、小学生において1.4%という頻度でした。
ATP-Ⅲ criteriaは、わが国小児の基準と同じ項目の構成をなしておりますが、米国やカナダでのその頻度は、4~18.6%とわが国よりも頻度は高いようです。
指導に関すること
メタボリックシンドロームの小児は、基本的に生活習慣として、身体活動や運動の不足が大きな問題です。それと食事栄養摂取の問題もファーストフードやスナック菓子,清涼飲料水の過多は、常に肥満外来では問題となっています。まず、これらの因子に注目し、家族の協力などで、規則正しい生活や食事の改善、身体活動が活発化するように努力させます。
メタボリックシンドロームに関する遺伝子研究や、乳児期や幼児期早期の母乳やミルクの相違が、反映されるとみられるbody mass index:BMIの推移すなわちadiposity reboundや、母体の低栄養による低出生体重児がその後肥満化し、2型糖尿病や心血管病に罹病しやすいという、Barker仮説との関連についても、今後研究が進むものと予想されます。
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